FC2ブログ

 スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

 若き宮廷魔導士の恋⑧

部屋が温まり、ブライが着替え終わった頃
お盆にあれこれ乗せてジーナが戻ってきた。
小さな卓に具沢山のシチューとパン、ワインが並ぶ。
シチューは丸い木の器に盛られ、あぶった腸詰め肉が添えてある。
この酒場で出すパンは固いがドライフルーツやオレンジピールが入っていて
ずっと噛んでいると甘みが出てきてうまいのだ。
最後にワインで流し込むと、口の中でワインの渋みとドライフルーツの甘みがあわさって
日々の糧に感謝の気持ちがわいてくる。

食事は一人前しかなかったが、陶器のワイングラスが二つあることに気付き、ブライは内心喜んだ。
とりあえず無言で卓につく。
ジーナも当たり前のように向かいに座るとグラスにワインをついだ。

「赤ワインで良かった?」
「あぁ。」
「そう言うと思った。好きだもんね、赤ワイン」
「あぁ。」
「わたしも一杯だけ飲んじゃおうかなぁ」
「あぁ。」


「…。」
「…。」


何か話さなければ。
頭の中ではぐるぐるといろんな言葉が巡っているが、どれも言葉にはならなかった。
階下の酒場では何度か向かい合って飲んだことはあっても
こんな静かな、しかも密室で二人っきりで飲んだことなど今までない。
日ごろ宮廷魔導士だのと偉ぶってみても
好きな女性と向かい合って言葉のひとつも出てこないなんて
なんと情けない。
目線も合わせられずにため息をつきながら
ブライはもくもくと食事を口に運んだ。


「なによ、まだ怒ってるの?」
「あ?」
「水かけちゃったこと。」

頬杖つきながらジーナはあきれ顔で言った。
赤ワインが炎に映えてキラキラと揺れていた。

「あぁ、あれか?
 この年になって水ぶっかけられると思わなかったぜ。
 呪文唱えてる最中の魔導士にケンカ売るなんてな。
 危うくお前を氷づけにするとこだ。」
「なに言ってんのよ。
 魔法を使っちゃったらまた懲罰委員会行きじゃないの」
「…。」


サントハイムの魔導士・魔法使いは、自分が属する魔法塔以外で魔法を使ってはいけない。
平和な時代ゆえのそんなルールがあった。

研究の末、会得した魔法なら、誰でも使いたくなると言うもの。
火焔塔の魔導士がメラの魔法を自慢するように、
氷結塔の魔導士たちだって自分たちのヒャドを自慢に思っている。
どちらの魔法が優れているか埒の明かない議論になり、
場所を問わずに魔法合戦となることが多かった。
魔法を実践で使う機会がなかったために、魔法が使える魔導士は自分の腕を試してみたくて仕方がなかったのだ。
サントハイム城内、城下を問わず、違う塔の魔導士たちが顔を合わすと魔法合戦が始まった。
市民たちから苦情が相次ぎ、サントハイム王は決断をした。


『以下の状況をのぞいて、サントハイム国内で攻撃魔法を使ってはいけない。
 人の命に関わる時。
 サントハイムに非常に大きな不利益があると判断した時。

 ただし、所属する魔法塔内は除く。』

所属する魔法塔内なら使えると言っても、火焔塔の魔導士がのこのこと氷結塔に来てくれるわけもない。
何年か前にブライは、このお触れを破って氷結塔の外で魔法を使ってしまったのだった。
例によって魔導士同士の小競り合いが城内であり、議論が白熱しすぎた結果だった。
お触れが出てから初めてだったこともあり、見せしめがわりにブライにはきついお仕置きがされた。

「…確かに、あれはもう嫌だなぁ。」
「そうよ。また魔法使ったら今度はもっときついお仕置きがあるかもよ。」

「もしかして、俺を心配してケンカを止めてくれたのか?」
「え?そうねぇ。
 ブライが使う魔法ってキレイだって聞いてたから見てみたかったとは思うんだけどね」

カチリとスイッチが入った。
毎日振り向かない女神ばかり追いかけてきたが、もうイヤだ。 
俺の女神は今、目の前にいるこの女だ。
何が何でも振り向かせてみせる。

「水ぶっかけたの、俺のほかにも二人いたろ?」
「えぇ、そうね」

椅子から立ちあがり、ジーナの隣に移動する。
ジーナを挟んで暖炉と向かい合う。
だから俺の顔が熱いのは暖炉の火のせいだ。

「なんで俺だけ服を着替えさせてくれたんだ?」
「え?」
「なんで俺のために食事持ってきてくれたんだ?」
「…。」

暖炉に背を向けているため、ろうそくの灯りだけではジーナの表情はわからなかった。
一度堰を切った言葉は止まらない。

「一緒に食事が出来て…、俺は、すごく嬉しかった。
 でもお前、仕事中だろ?
 なんで一緒にいてくれるんだ?

 …俺、期待しても、いいか?」


⑨へ

スポンサーサイト

 コメント

 コメントフォーム













 秘密コメント

 トラックバック

 トラックバックURL

Material by 青の朝陽と黄の柘榴/Template by Ophelia
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。